【過去コラム再掲】ポルトガル人監督流ローテーション術

2013-14シーズン中に執筆した記事です。「今シーズン」の記載にお気を付けください。

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シーズンが終盤へ進むにつれて、多くのチームで目撃されるようになる「ローテーション」。

皮肉にも、カップ戦を勝ち上がるような上位チームほど、比例して選手たちの体内には疲労が溜まり、この「ローテーション」、つまり、レギュラーメンバーを温存して試合に臨むことを強いられるようになります。

そしてこれこそが、上位チームが下位チームに負けるシーズン終盤の風物詩である「ジャイアント・キリング」という逆転現象を生み出す原因のひとつとなっているのです。

アスリートの疲労を完全に取り除くには、4日間の休養が必要であると言われています。(※大学でスポーツ学を学ぶポルトガル人の友人談)

すなわち、週に2試合をこなすような強豪チームの選手たちにとっては、シーズン中に100%フレッシュな状態を維持することは、ほぼ不可能に近く、どこかのタイミングで休養を取らなくては怪我をする恐れがあるということです。

では、多くの監督たちは、どのようにしてこのローテーションを用いて選手たちの疲労を和らげているのでしょうか。今回はポルトガル人監督のローテーション術をザッとまとめてみました。

 

まず、お話を進める前振りとして。僕はローテーションには、いわば博打的な要素が含まれていると考えています。正真正銘の博打という意味ではありません。この考えを頭の片隅っこに置いて読み進めていただきたく思います。

例えば、ミッドウィークに重要なカップ戦が待ち構える週のリーグ戦でローテーションを採用するとします。

すでにリーグにおける優勝チームやCL出場権獲得チームが確定していた場合、この週末のリーグ戦を、(言葉が悪いですが)「消化試合」と見なして、ローテーションをする場合には何も問題ありません。勝てればなおよいですが、負けてもチームの順位には影響がないからです。

実際に、今年のポルトガルリーグ最終節、ポルト対ベンフィカ戦において、すでにリーグ優勝を決め、この試合の数日後にELの決勝を控えていたベンフィカは、ローテーションを採用してポルトのホームスタジアムに乗り込みます。そして、Bチームの選手を中心としたほぼ2軍のメンバーで戦い抜きました。

結果はポルトの2-1の勝利でしたが、リーグ優勝を決めたベンフィカからすれば、この試合の勝敗よりも数日後のEL決勝のために選手を温存することの方がずっと重要でした。

 

このベンフィカのジョルジ・ジェズス監督は、ローテーションを頻繁に採用する監督です。

例えば、今年の4月末にEL準決勝ユベントス戦を2週間連続で控えていた週の合間のリーグカップ準決勝ポルト戦。ホーム&アウェーのない一発勝負の試合において、ベンフィカは主にカップ戦要因と化したカルドソと、チーム得点王のリマの2人をツートップに据えました。試合の半ばにベンフィカMFが1人退場となり、ツートップのどちらかを交代することを強いられたとき、ジョルジ・ジェズス監督はカルドソではなくチーム得点王であるリマを交代させたのです。

そのときのことを、後の記者会見でこう語ります。

「交代させるべきはリマではなくカルドソだった。しかし、リマは木曜日に向けてフレッシュな状態でなくてはならなかった。カルドソを残すというリスクを負ったが、もっと先を、木曜日のELを頭に入れていた」

結果は、90分で決着がつかず、PK戦の末ベンフィカが決勝進出。次のEL 2legユベントス戦もリードを守り切って決勝に駒を進めたように、このローテーションはまさに理想的な結果となりました。

ジョルジ・ジェズス監督は、このように、チームの数人を入れ替えたり、試合途中に次の試合を見据えて重要な選手を交代させるというような策を頻繁に導入します。リーグ最終節で実施した総入れ替えローテーションなどの大きなリスクは滅多に負いません。なるべく少ないリスクでローテーションを頻繁に行い、重要なカップ戦をフルメンバーで戦うことを好みます。ごくたまに、例えば消化試合のようなリスクのない状況に限り、大胆なローテーションを採用することもあるのです。

 

このジョルジ・ジェズス監督以上にローテーションの「信仰者」とされるのが、チェルシーを率いるジョゼ・モウリーニョ監督です。

彼は優勝がかかった大事な試合でさえ、メンバーを総入れ替えするような大胆なローテーションを採用することがあります。

奇しくもジョルジ・ジェズス監督の前例と同じ週、チェルシーはCLアトレティコ戦に挟まれた週末に、リバプールとのリーグ優勝のかかった大一番を控えていました。しかしモウリーニョ監督はすでに自力優勝の可能性が消滅していたリーグよりもCL制覇を優先し、試合前からメンバーの入れ替えを明言します。

実際に、普段のスタメンを大幅に変更した、いわゆる「2軍」を送り込み、超守備的戦術を採用して2-0で勝利しました。

とはいってもこの「2軍」は、主に各国代表選手で形成され、プレミアリーグでもスター選手の部類に入る選手ばかりでした。確かにリーグ1位のリバプールに勝利した手腕はお見事ですが、このローテーションを採用しての勝利は、チェルシーのような、トップ選手たちで2チームを組めるほどの選手層がなくては実現しなかったことでしょう。

ここに僕がローテーションを博打的な要素が含まれると考える理由があります。消化試合ならローテーションを採用してもリスクはないですが、このリバプール戦のような重要な試合で採用するのは大きなリスクを伴います。もちろん負ければ「メンバーを落としたから負けた」「対戦相手に敬意を欠いている」などと四方八方から叩かれいたでしょう。もちろん監督が綿密な計算をして、勝てると踏んだ選手を送り込んでいることだろうとは思いますが、「ある意味で(ここ重要)」ローテーションは「賭け」的な要素が含まれるのではないでしょうか。

 

ポルトガル人監督の中にはローテーションを嫌う監督もいます。過去にポルトやチェルシー、トッテナムを率い、現在はゼニトの監督を務めるアンドレ・ビラス・ボアス監督です。

彼は、自身でもローテーションに対しては否定的な発言をしており、ポルト監督時代には、週末にリーグ・ベンフィカ戦を控える週のELベジュクタシュ戦の前日会見でこのように述べました。

「次のベンフィカ戦のために私がベジュクタシュ戦で選手の温存をするかって?少しも考えてないね。理由は簡単だ。私は決して選手の温存はしないからだ」

なぜビラス・ボアス監督はここまでかたくなにローテーションを拒否するのでしょうか。その理由も彼の発言から汲み取ることができます。

「気の緩みや温存はあってはならない。選手たちは、そのような『全てが解決された』というような考え方は危険なものだということをよく知っている。(次の試合では)気の緩みによるリスクは存在しないだろうと確信している」

ビラス・ボアス監督がローテーションを採用しない理由は簡単です。

サッカーは何が起こるか最後まで分からない。温存やローテーションというのは選手たちに気の緩みを与え、それが勝てる試合すらも負け試合にしてしまう。ということでしょう。

 

ではビラス・ボアス監督は、ポルトという週に2試合をこなすようなビッグクラブにおいて、どのようにしてローテーションを用いずに選手たちの疲労を取り除いたのでしょうか。答えは彼の選手交代の方法にありました。

ポルトガル人記者のLuís Freitas Lobo氏はビラス・ボアス監督のポルト時代の采配をこのように分析しています。

「チームをいじるとき、ビラス・ボアスは基本的に中盤をいじる。選手交代のタイミングは60〜75分の間だ。そして、普段の4-3-3というフォーメーションからウイングを一枚削り、4枚の中盤を据えた4-4-2(中盤ひし形or1-3)を形成するのである。こうすることで、4-3-3がチームまたは選手個人にもたらしやすい消耗や戦術的疲労を避ける。そして、この選手交代の時間も大切だ。チームは試合中に次の試合に向けた回復を始めるのである。まだ前の試合の途中だというのに。4-4-2は明らかに、ボール保持によって選手たちの休息をもたらすのである」

ビラス・ボアス監督の方法は、一般的なローテーション、つまり、大事な選手を温存するために交代をさせることとは違います。チーム全体の疲労感を取り除くためのシステム変更に伴い、疲労の溜まっている選手を交代するのです。

 

このように、ローテーションに対しては、ポルトガル人監督の間でも賛否両論があります。しかし一貫しているのは、どの監督も、疲労を取り除くために次の試合を見据えた選手交代を行っているということです。試合中に、「なぜあの選手が交代するんだ!?」という疑問を持つことはよくあると思いますが、このような試合の前後関係や、連続する試合の重要度、監督のローテーションへの考え方などを頭に入れながら選手交代の理由を考えると、より面白い目でサッカー観戦ができるのではないでしょうか。