【過去コラム再掲】ポルトガルサッカーの縮図としてのFCポルト

現在のサッカーシーンにおいて、いまや、ポルトガルは世界中の注目を一身に集める巨大勢力となった。欧州サッカー連盟(UEFA)が査定するリーグランキングでは、2013-14シーズンにイタリアを抜いて4位となり、 クラブランキングでは、名だたる名門クラブが形成するベスト10に、SLベンフィカ(5位、以下ベンフィカ)とFCポルト(9位)の2チームがランクインしている。 世界の一流クラブで中心選手として活躍するポルトガル人も急増し、ポルトガル人監督という存在は、一種の名監督としてのブランドとなりつつある。

しかし、日本でのポルトガルサッカーの知名度は決して高いとは言えない。筆者が「Twitter」にて行った独自アンケート では、実に61パーセントもの回答が、選手や監督、クラブなどといった内容の薄い固有名詞のみという結果となった。すなわち、筆者のTwitterをフォローしている比較的サッカーに精通している層ですら、ポルトガルサッカーの特徴を掴みきれていないのである。

FCポルトやベンフィカなどの世界的に有名なポルトガルクラブの状況は、ポルトガルサッカーのそれと酷似している。言い換えれば、これらクラブはポルトガルサッカーの現状を映す鏡なのである。本レポートの目的は、日本人の理解が乏しいこれらクラブの中でも、筆者が実際に在住した経験のある街のクラブ、FCポルトを詳細に解説し、クラブという枠を超えてポルトガルサッカー全体にも適用し得る提言を示すことにある。

 

<FCポルト概要>

FCポルト、正式名称は「Futebol Clube do Porto」。1893年、ポートワインの貿易に従事していたニコラウ・デ・アウメイダ氏が、イングランドで出会ったサッカーに魅了され、故郷ポルトにサッカークラブを設立したのが始まりである。

ポルトガル1部リーグの優勝経験がある5クラブ の一角であり、ベンフィカ、スポルティングCP(以下、スポルティング)とともに、ポルトガルの「3強(Três Grandes)」と謳われている。現在のピント・ダ・コスタ氏が1982年に会長就任してからは、リーグの5連覇と4連覇を達成し、近年ポルトガルで最も多くのタイトルを獲得しているクラブである。

かつてのホームスタジアム「Estádio das Antas」は、欧州選手権(EURO)2004のポルトガル開催に伴い、現在のホームスタジアム「Estádio do Dragão」に建て替えられた。創立10周年を迎えた2013年には、クラブの潤沢な資金力をもとに、隣接するミュージアム「Museu Futebol Clube do Porto」が建設され、クラブの近代化が推進されている。

 

<FCポルトの実力>

「近年ポルトガルで最も多くのタイトルを獲得しているクラブである」と記述したが、それでは、FCポルトは世界的に見てどれほどの強豪クラブと言えるのか。国内リーグやヨーロッパ大会での戦績から紐解いていく。

まず、国内リーグに関して言えば、近年FCポルトが圧倒的な強さを見せつけている。2002年から2014年の12シーズンにかけてのリーグ優勝は、FCポルトとベンフィカの2クラブが独占しており、事実上の「2強(Dois Grandes)」体制となった。その中でFCポルトは4連覇と3連覇を含む9回のリーグ優勝を果たし、同3回のベンフィカを大きく上回る。

続いてヨーロッパ大会に関してだが、並みいる超名門クラブの中でも、FCポルトはその存在感を十分に発揮している。ヨーロッパ各国の上位チームが一堂に会する「チャンピオンズ・リーグ(以下、CL)」は、欧州のナンバーワンクラブを決める由緒正しき大会である。近年の優勝クラブは、スペインのバルセロナとレアル・マドリード、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドやリヴァプール、それからチェルシー。イタリアのミラノに本拠地を置く2クラブ、ACミランとインテル・ナシオナル、そして、ドイツのバイエルン・ミュンヘンといった、サッカーファンならば誰もが知る超名門クラブである。このようなクラブでしか成し得ない優勝という快挙を、FCポルトは2003-04シーズンに達成し、世界を驚愕させた。

また、CLへの出場が叶わなかった上位チームが参加する、CLの下位リーグ「ヨーロッパ・リーグ(以下、EL)」では、2002-03シーズンと2010-11シーズンに優勝を果たしており、同大会で毎年のように躍進するポルトガルクラブの一角を担っている 。

今シーズン(2014-15)も、国内リーグではベンフィカに次ぐ2位につけており、CLのグループステージでは、4勝2分0敗の成績で首位通過し、ポルトガルのクラブでは唯一決勝ステージに駒を進めた。国内ではベンフィカと頂点を争い、ヨーロッパの大会でも毎年のように上位進出を決めている。これが現在のFCポルトの実力である。

 

<「人材供給地」としてのFCポルト>

FCポルトがヨーロッパの大会で勝ち進むに十分な実力があるのは確かだが、CLで優勝候補に挙げられるほどのものではないというのが事実である。十数年も昔の偉業であるCL優勝が、現在でもポルティスタの間で語り継がれているのは、それほど稀有な「大事件」だったからであろう。今年のCLでも、FCポルトが優勝すると心底信じて疑わないのは、ポルティスタの中でも何人いるだろうか。愛するクラブを、前述のバルセロナやレアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘンといった優勝候補の常連チームと肩を並べる存在だと言うのは、いささかおこがましい。

なぜFCポルトはこれらの超名門クラブと成り得ないのか。その謎を解明するには、反対になぜこれらクラブが超名門と言われる実力を備えているのかという疑問を究明する方が手っ取り早い。

チームとは選手個々の能力の総和である。そこにコンビネーションやチーム戦術などの要素が絡み合うことで相乗効果が生まれる。しかし、4年間同じメンバーでサッカーをしている大学サッカー部と、年に数回しか集まらない日本代表チームが試合をすれば後者が圧倒的に勝利するのが常であるように、概ねチームの強さは選手個々の実力に比例する。

すなわち、超名門クラブの選手たちは世界トップレベルの実力を備えており、これらクラブはそのような選手たちの集まりなのである。名門クラブが、膨大な資金力や世界的なブランド力を武器に各国の名選手を青田買いし、チーム力を強化する傍らで、当然彼らに「搾取される」側のクラブが存在する。その代表例がFCポルトなのであり、所属する数名のスーパースターたちが毎年のように、名門クラブに引き抜かれる。これが、FCポルトが超名門クラブに成り得ない所以なのである。

全世界の大半のクラブが、限られた名門クラブへ人材を供給している。そして、近年の選手や監督の供給量において、FCポルトの右に出るクラブはない。FCポルトは世界で最も優れた人材供給地と言っても過言ではない。

近年の代表例として5名の人物を挙げよう。まずは、かつてJリーグでもプレーしたブラジル代表フォワードのフッキである。2008年に東京ヴェルディからFCポルトへ移籍したフッキは、その年、ポルトガルリーグの年間若手最優秀選手賞を受賞した。2010-11シーズンにはリーグの得点王とMVPをダブル受賞し、翌年にも2年連続となるリーグMVPを獲得。ポルトガルリーグの最優秀選手は、推定5000万ユーロ(当時、約50億円)という大金を残してロシアのゼニトへ移籍した。

フッキと同時期にFCポルトで活躍したのが、ラダメル・ファルカオとハメス・ロドリゲスのコロンビア代表コンビである。前者は2010-11シーズンにFCポルトが優勝したELで得点王に輝き、現在は「世界最高峰の9番」として引く手あまたの中、マンチェスター・ユナイテッドで活躍している。後者はFCポルトで芽を出し、現在最も注目を集める若手スーパースターのうちの一人である。510万ユーロでFCポルトにやってきた青年は、ブラジルワールドカップでの活躍が評価され、8000万ユーロ(当時、約110億円)という歴史的な移籍金で、レアル・マドリードの10番として迎え入れられた。

FCポルトは優秀な監督をも輩出している。現在世界最高の監督の一人と目され、ポルトガル人監督というブランドを確立したジョゼ・モウリーニョが、全世界にその名を知らしめたのが、FCポルトでの2003年のEL優勝、続く2004年のCL制覇である。また、上記の3選手を育て上げ、自身も名監督の仲間入りを果たしたアンドレ・ビラス・ボアス現ゼニト監督は、近年の世界各国で活躍する若手ポルトガル人監督の代表格である。 彼は、2010-11シーズンに、愛するクラブFCポルトで国内リーグを無敗優勝し、史上最年少でヨーロッパ大会を制すなど、記録ずくめの4冠という偉業を成し遂げた。

現在世界のサッカーシーンでは、FCポルトやベンフィカを始め、多くのポルトガルリーグ出身の選手・監督が活躍している。国際サッカー連盟(FIFA)が発表した2014年FIFA/FIFPro(国際プロフットボール選手協会)ワールドベストイレブンには、2年連続でバロンドールを獲得したクリスティアーノ・ロナウド(元スポルティング)を筆頭に、4人のポルトガルリーグ出身者が選出された。 このような状況はポルトガル国民にとって大きな誇りである。しかし一方で、ポルトガルサッカー界に深刻な問題を引き起こしているのもまた事実である。

 

<FCポルトの未来>

FCポルトを「人材供給地」と言えば聞こえは良い。しかし実情は、有望な選手や監督たちからすれば、名門クラブへ飛躍する前の「踏み台」であり、これら強豪クラブにとっては、優れた人材を輩出してくれる、都合のいい「生産請負工場」なのである。その結果、FCポルトには「ポルトガル人の空洞化」とも言える深刻な事態が生じてしまった。

「ポルトガル人の空洞化」を引き起こす最大の要因は、国外クラブから引き抜かれた有力なポルトガル人選手の後釜と成り得る、若手ポルトガル人選手が現れないことにある。そして、彼らの台頭を妨げ、空洞化を引き起こす最大の根源が、クラブの外国人化なのである。

国内リーグにおいて勝利を義務付けられたFCポルトは、ポルトガル人よりも身体能力に優れ、チームを勝利に導く可能性の高い外国人選手に頼るようになってしまった。実際に、今シーズンのFCポルトのメンバー構成を見てみると、登録メンバー28名のうちポルトガル人選手はたったの4名しかおらず、残りの24名は全て、スペインやブラジル、コロンビアなどといった国外出身の選手たちが名を連ねる。さらに、2014年10月19日に行われた「ポルトガルカップ」3回戦の対スポルティング戦では、FCポルトのスターティングメンバー11人の中に、ポルトガル人選手が一人も含まれないという「珍事」に見舞われてしまった。

今後も、現在のように外国人選手を採用し続けると、ポルトガル人若手選手がプレーする機会は減る一方である。それが代表の弱体化を引き起こすのは言うまでもなく、FCポルトが外国人選手を育て上げることで他国の強大化を助長することになってしまうのは、なんとも皮肉なものである。

この空洞化現象は、何もFCポルトに限ったものではない。ポルトガルサッカー界全体に共通するものである。2014年ブラジルワールドカップをグループリーグ敗退で終え、エースであるクリスティアーノ・ロナウドという一人のタレントに頼り切っているポルトガルが今後もヨーロッパでのプレゼンスを維持するために、国産若手選手の育成は避けては通れない道なのである。簡単なことではないだろう。しかし、彼らが母国リーグで活躍し、リーグがより競争力の高い魅力的なものになれば、多くのポルトガル人選手が名門クラブの誘いを断り残留を決断するようになるかもしれない。外国人選手の売却で得た資金をポルトガル人選手の年棒に充てれば、彼らを引き留めることができるかもしれない。

かつて世界のスーパースターのためのリーグであったイタリアセリエAの凋落を、20年前の誰が予想しただろうか。サッカーではすべてが起こり得る。そのためには、FCポルトを始めとする各クラブが、外国人選手に頼らずに若手ポルトガル人を登用する、勇気ある英断が求められる。

 

<現在ヨーロッパで活躍する40歳前後のポルトガル人監督>

マルコ・シウヴァ(オリンピアコス、ギリシア)

レオナルド・ジャルディン(モナコ、フランス)

ヌーノ・エスピリト・サント(バレンシア、スペイン)

パウロ・ソウザ(フィオレンティーナ、イタリア)

ヴィトール・ペレイラ(フェネルバフチェ、トルコ)など

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