新潮流によるポルトガル若手市場の変革

「ブラジルW杯グループリーグ敗退」

ポルトガル代表に突きつけられた現実であった。国内では「クリスティアーノと10人の仲間たち」と揶揄されるほどに、エースへの依存体制から脱却できずにいた。さらに畳み掛けるように、コエントランら中心選手に負傷者が続出したことで代表は満身創痍に。選手層の薄さを露呈し、若手が育ってないのではないかとの不満が国内から噴出した。

筆者もW杯直後にはそのような想いを抱いていた。果たして、本当に有力な若手選手は育っていないのだろうか

答えはノーである。

当時の世論には反して、現在のポルトガルには世界に誇れる若手選手が多く存在している。その証拠として、2015年チェコで開催されたU-21欧州選手権でポルトガルは準優勝に輝き、優勝したスウェーデンの3名を超える5名もの選手がベストイレブンに名を連ねた。ポルトガルが世界のトップクラスで活躍し得る若手選手に恵まれている証であろう。

この若手の豊作期とも言える状況の一端を担っているのは、紛れもなくスポルティングである。ブラジルW杯にも出場し、U-21欧州選手権ではMVPに輝いたウィリアン・カルバーリョを始め、A代表とU-21代表を兼任するジョアン・マリオや、クラブで主力〜準主力として活躍するカルロス・マネやトビアス・フィゲイレードなど、有望な若手選手をU-21代表に送り込んでいる。国産の若手選手を手塩にかけて育てる文化があるスポルティングが、今後も豊作期を支えるのは間違いない。

しかし、ここで特筆すべきなのはスポルティングではない。フィーゴやクリスティアーノ・ロナウド、ナニらを排出したスポルティングが、ポルトガルの若手市場を席巻したのは今に始まった事ではないからだ。筆者は、最近新たに見られ始めた「ある潮流」こそが、これからのポルトガルサッカー界の若手市場を形成していくと予想している。そして、この風潮はポルトガルが長年抱えてきた重大な構造的問題をも解決し得るのである。

この新潮流の代表的な産物こそが、前述のU-21欧州選手権においてベストイレブンにも選ばれ、ポルトガル代表のエースに君臨したベルナルド・シウバである。同選手は、ベンフィカでは強力な外国人助っ人の陰で出場機会に恵まれず、膨大な資金力を武器に積極補強を進めていたモナコへ移籍した。富豪の地で同郷監督レオナルド・ジャルディンの指導を受けたことで、その才能が花開いたのだ。

本事例からも帰納される「新潮流」とはすなわち、外国人助っ人とのレギュラー争いに敗れた若手選手の国外CL級ビッグクラブへの移籍である。

筆者はこれまで、ポルトガルサッカー界が抱える構造的問題点を声を大にして唱え続けてきた。すなわち、ポルトやベンフィカなどのクラブが勝利を過度に追求するあまり、リーグが強力な外国人選手に寡占され、国産若手選手の育成機会が奪われていることである(参考:筆者過去記事『ポルトガルサッカーの縮図としてのFCポルト』)。この深刻な問題によるポルトガル人若手選手の競争力低下こそが、ブラジルW杯において同国が期待外れに終わった一因なのかもしれない。しかし、(後述するが)これまでの国外移籍とは明らかに異なる新潮流下の国外武者修行により、多くの若手選手がCLレベルの経験を積むことで、ポルトガル代表が世界のフットボール界を再び席巻する可能性があるのだ。

このような若手選手の国外移籍を「新潮流」などと取り立てているのだから、当然これまでのポルトガル人若手選手の移籍とは毛色が異なる。本題に入る前に、まずは伝統的な国外移籍の状況を詳述したい。

これまでの常識として、外国人助っ人とのレギュラー争いに敗れ、出場機会を失った若手選手が置かれる状況は、主に以下の5パターンに分類された。

  1. 所属クラブでの飼い殺し
  2. Bチームでの武者修行
  3. 国内下位チームへの移籍
  4. 国外上位リーグ(スペインなど)下位チームへの移籍
  5. 国外下位リーグ(トルコやブラジルなど)チームへの移籍

1つ目の状況は、すでにBチームレベルを超えている選手が陥りがちである。シーズン途中に、買い手が見つからなかったり、クラブがベンチには控えていて欲しい一応の戦力とみなしたりした場合に散見される。2つ目の状況は、AチームとBチームを行き来するクラスの選手に多い。そして、これら2つの状況に置かれていた若手選手が、シーズンを終えて移籍先を模索する際に、上記3-5の3パターンの選択を迫られるのである。3つ目の代表的な例は、U-21代表トゼ(ポルト→エストリル、2014-15)や、今季よりポルトへ復帰するセルジオ・オリベイラ(ポルト→パソス)などが挙げられる。4つ目の例は、ロペテギ監督下で構想外となった元ポルトのリカーが良い例だ。ポルトで戦力外となり、リーガ・エスパニョーラのラージョへ移籍した。最後5つ目の例として、ジョズエの名前を挙げたい。同選手はパソスの3位躍進に貢献し、鳴り物入りでポルトへ入団したが、思うような結果を残せなかった。リカーと同じくロペテギ監督の構想に入ることができず、トルコのブルサスポルへ活躍の場を移した。

これら5パターンからも明白なように、これまでは、ポルトやベンフィカのようなクラブで出場機会を獲得できなかった選手が、所属クラブと「同格」もしくは「格上」のチームへ移籍することはごく稀であった。しかし、前述のベルナルド・シウバのように、近年は彼らがCL級の国外クラブに即戦力として迎え入れられているのである。これまでの「格下」チームへの移籍とは明らかに種類が異なるのは、誰の目にも明らかだろう。

ここで一つの疑問が生じる。

ポルトやベンフィカで出場機会を奪取できなかった若手選手が、モナコやバレンシアなどのより強力なビッグクラブで出場機会など得られるのだろうか?

イエス・ノーで解答を提示する代わりに、3選手の例を挙げよう。1人目が、既出のベルナルド・シウバである。ベンフィカのAチームでは公式戦3試合出場のみに終わった同選手が、新天地モナコでは45試合10ゴールと大爆発。レバークーゼンとの一戦では、念願のCLデビューを果たし、若干20歳ながらチームの主力として躍動している。2人目は、ベンフィカAでは公式戦19試合1ゴールに沈んだイバン・カバレイロだ。最初の移籍先はリーガ・エスパニョーラのデポルティボであり、これまでの伝統的な国外移籍パターンを辿っていた同選手だが、2015-16シーズンからは新潮流に乗りモナコへ。移籍金1500万ユーロ、5年契約という破格の条件で迎え入れられた。プレシーズンでは、早くもスタメンデビューを飾り、ゴールを決めている。ベルナルドとカバレイロはU-21欧州選手権でベストイレブンに輝いた、まさにモナコとポルトガル双方の未来を担う、将来を嘱望された若手選手である。3人目は、バレンシアに所属するジョアン・カンセーロである。ルイゾンやガライといった世界的な名DFの陰で、ベンフィカAでは2試合の出場にとどまった。翌年にレンタル移籍したバレンシアでは13試合に出場し2021年までの長期契約を勝ち取った。本契約となり、今後はより多くの出場機会を手にすることだろう。

このように、近年は、ポルトガルでは外国人選手とのレギュラー争いに敗れた若手選手が国外のCL級クラブへ移籍し、母国での出場機会よりずっと多くのゲーム経験を積んでいるのだ。紹介した3選手はポルトガル代表としてU-21欧州選手権にも参加しており、数年後にはフル代表での活躍も期待されている。彼らが出場機会を求めて移籍した強豪クラブでトップレベルの経験を積んだことが、同代表が準優勝という好成績を残せた一因だろう。

なぜ、これら強豪クラブは、母国で試合に出られるレベルにない若手ポルトガル人を獲得するのだろうか。そこには、彼らの実力を熟知し、将来性に期待を寄せる同郷監督の存在があった。この新潮流を生み出したのは、国外へ活躍の場を移したポルトガル人若手監督であると言っても過言ではないほどに、彼らが新潮流を主導する重要なファクターとなっている。

国外の若手ポルトガル人選手を語る際に度々メディアにその名が挙がるのは、バレンシアとモナコであろう。この2クラブは、若手ポルトガル人選手の獲得に特に躍起になっている。バレンシアのヌーノ・エスピリト・サントとモナコのレオナルド・ジャルディン両監督は、母国若手選手の能力に大いなる可能性を見出し、彼らにCL級の舞台を用意することで成長を促している。これらビッグクラブが若手ポルトガル人選手を重宝する陰には、同郷の若手を信頼してチームの勝利を託し、母国サッカー界の未来を憂うポルトガル人監督の姿があるのだ。今後は、バレンシアやモナコだけにとどまらず、ビトール・ペレイラが指揮するトルコのフェネルバフチェや、マルコ・シウバが監督就任したギリシアのオリンピアコスも新時代の波に乗っていくことだろう。(参考:筆者過去記事『「ポルトガル・ドリームチーム」を推し進める3クラブ』)

母国では公式戦経験を多く積むことができなかった若手ポルトガル人選手が、同郷監督のサポートのもとで、スペインやフランスなどの上位リーグやCL・ELといったヨーロッパ最高峰の舞台を体感できる新潮流は、外国人選手の寡占による国産若手選手の育成機会阻害というポルトガルサッカー界が抱える深刻な問題を解決し得る。この新たな風潮によって、国内の「ポルトガル人選手の空洞化」が加速するのは確かである。ポルトガルリーグのレベルを超越したスター選手だけでなく、将来リーグの中心選手となるべき若手選手までもが国外へ移籍するのだから当然であろう。しかし、この国内空洞化という確かなデメリットを凌駕するほどのメリットが、新潮流によって生み出されるのである。

これまでの伝統から、外国人選手によって寡占されたポルトガルリーグが抱える問題点は主に2つあった。まず、レギュラー争いに敗れた若手選手が飼い殺しされた、もしくは下位チームで低質な試合経験しか積めなかったゆえに、彼らの成長が阻害されたこと。そして、それに伴うポルトガル代表の弱小化と、コロンビアなどポルトガルリーグで選手の育成に成功した他国代表の強大化である。つまり、外国人選手の寡占により「ポルトガル代表の絶対的かつ相対的な弱体化」が引き起こされた。

しかし、近年の新潮流により代表の弱体化を食い止めることができるのだ。まず1点目に、国外CL級クラブへ移籍した若手選手が、国内で経験でき得た以上の高質な試合経験を積むことができること。2点目に、ポルトガルでは敗者の烙印を押された彼らが、実際にはビッグクラブの即戦力となれることを証明したことである。新潮流の1期生とも言える若手選手が、「埋め潰された」実力を世界に見せつけたことで、今後は2期生、3期生が後を追うことが予想される。すなわち、若手ポルトガル人選手の国外移籍の裾野が広がり、より多くの選手が高質な試合経験を積めるのである。U-21ポルトガル代表が証明したように、新潮流に乗る若手選手の成長が母国代表を強化することは言うまでもない。

今後、ポルトガルの強豪クラブは、若手を国外に売却した資金で外国人選手の買い漁りを加速させるだろう。その証拠に、レアルのカシージャスを電撃補強したポルトのような、これまでの外国人助っ人とは毛色の違う有名選手のポルトガル到来という「逆方向の新潮流」までもが生まれ始めている。ポルトガルリーグから国産選手が姿を消すことは、母国のサッカーファンを失望させ、サポーターのクラブへのロイヤリティを低下させるなど、新たな問題を引き起こす可能性は確かにある。しかし考え様によっては、このような逆方向の新潮流がポルトガルクラブを強大化させ、ヨーロッパの舞台でのプレゼンスを高めるというメリットもある。また、強力な外国人を抱えるポルトやベンフィカに、母国の若手選手を多く抱えるスポルティングやブラガといったクラブが挑む構図が極端化すれば、ポルトガル人若手選手は国内でも十二分に成長できる。

「新潮流」とそれに伴う「逆方向の新潮流」が生み出され、前者によってポルトガル人若手選手が成長し、代表が底上げされる。後者によってポルトガルクラブがヨーロッパのコンペティションで存在感を増す。またはスポルティングなどのクラブが彼らに対抗することで、国内で若手選手を強化できる。代表のエース、クリスティアーノ・ロナウドもすでに三十路を超え、彼にばかり頼ってはいられなくなった。その状況を憂うポルトガル人監督によって、偶然か必然か生み出されたこの新潮流こそが、ポルトガルの若手市場に大変革を与え、ポルトガルサッカー界が抱える重層な閉塞感を打ち破る鍵となるだろう。