ベンフィカ新監督ルイ・ビトーリアのモチベート術

2015年8月8日、ポルトガルメディア『Record』電子版は、『ルイ・ビトーリアのモチベートメソッド』と題したニュースを公開した。筆者はこれまで、個人的に最も強烈な興味を抱いている「ポルトガル人監督」というテーマについて数点の記事を執筆してきた。当然、ベンフィカというポルトガル最大のクラブで監督を務めるルイ・ビトーリアのマネジメント術を取り上げない訳にはいかない。ポルトガル人監督を日本に伝えるという一種の使命感に突き動かされた。

本題に入る前に一点。筆者はかつて『ストライカーDX』にて、現ゼニト監督アンドレ・ビラス・ボアスのモチベート術というテーマの記事を執筆した。ポルトガル人監督という共通項を持つルイ・ビトーリアのそれを紹介する前に、参考としてビラス・ボアス流のマネジメント術を暫し振り返りたい。

(参照記事:ビラス・ボアス流モチベート術 前編//ビラス・ボアス流モチベート術 後編/『ストライカーDX』より)

これら記事で紹介したビラス・ボアスのモチベート術は主に3点。1つ目が、最終目標を達成するために、小さな日々の目標を選手に課すという手法。2つ目が、チームが置かれた状況に適切なビデオを見せることで気持ちを昂らせ、自信を与える手法。そして3つ目が、ハーフタイム中のメッセージを絞ることで選手の共感を呼ぶという手法である。実際に、当時ポルトのキャプテンであったエウトンからは、「例えば『勝つためにプレーしよう!』なんて言葉は、僕ら選手たちにとっては大きな意味も持たない。そんなことはいつも耳にしているからね。でも彼は違うんだ。いつも新しい何かをプラスしてくれる。それが素晴らしいんだ」という高い評価を得た。ビラス・ボアスの優れたモチベート術が伺えるコメントだろう。

それでは本題に入ろう。ビラス・ボアスのポルトと並ぶ国内の巨大クラブ、ベンフィカの監督ルイ・ビトーリアは、どのようにして選手の士気を高めているのだろうか。

過去ルイ・ビトーリアに率いられた3選手のコメントに、彼のモチベート手法が端的に表れている。

現在リオ・アベでプレーするGKカッシオは、パソス・デ・フェレイラに所属していた2011年の4月23日に、コインブラの地でベンフィカとのリーグ杯決勝に臨んだ。当時パソスを率いていたのがルイ・ビトーリアだった。カッシオは決戦の前夜にチームが宿泊したホテルで起きたことを振り返り、このように語った。

「監督は全選手の部屋を訪れてはおやすみの挨拶をし、メッセージカードを渡してくれた。そのカードは僕らを奮い立たせるものであり、それぞれ別の内容が書かれていたんだ」。35歳の同選手は、当時を思い返し「印象的な」監督だったと評した。

ポルトガルのアトレティコに所属するハビエル・コエーネも、コインブラでの決戦でルイ・ビトーリアのもとプレーした選手の1人だ。パラグアイ人DFも同監督のモチベート術をこのように語った。「あのリーグ杯決勝はスペシャルだった。監督はずっと選手たちと対話していた。試合に出ている選手も出ていない選手もだ。そして僕らを鼓舞し続けてくれたんだ」。現在は28歳になったコエーネは「監督とともに過ごしたかけがえのない時間だった」と懐かし気に振り返った。

ルイ・ビトーリアにとって、これまでのキャリア最高の瞬間は、2013年5月26日ジャモールの国立競技場にて、ベンフィカとのポルトガルカップ決勝に勝利し、ギマラインスに優勝杯をもたらした瞬間だろう。ギマラインスの33歳レオネル・オリンピオは、タイトルをかけた決戦の場にいた。チームはベンフィカのニコ・ガイタンのゴールで先制されるも、70分のサウンダーニの同点弾と81分のリカルドの決勝点により大逆転劇を演じた。ベンフィカ有利の声を覆し、タイトルカップを掲げたのだ。オリンピオは自身にとってもキャリアの絶頂となった瞬間を思い返した。「僕らが準備していたことが実際に起きたんだ。全てのシチュエーションをトレーニングしていた。1-0で勝っているパターンも、0-1で負けているパターンもだ」

3つのエピソードから、ルイ・ビトーリアが選手をみな平等に扱い、個々との対話を最重視する、人間味溢れた監督だということが伺える。それに加え、フットボールの戦術面でも準備を怠らないその真摯な姿勢が、選手たちから評価されているようだ。

選手のモチベート術と戦術センスに優れたビラス・ボアスが4冠の偉業を成し遂げてから約5年の月日が経過した。2014年には、前監督ジョルジ・ジェズスがベンフィカに国内3冠をもたらしたが、ビラス・ボアス同様2つの側面を兼ね備えたルイ・ビトーリアは、前任者と同等の、もしくはそれ以上の結果を残すことができるだろうか。

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