大航海時代に訪れた黒船。大物選手のポルトガル到来という「逆方向の新潮流」

ポルトガルリーグの移籍市場に「異常事態」が発生した。

国内クラブで外国人助っ人選手とのレギュラー争いに敗れた若手選手が、国外CL級ビッグクラブへ移籍するという「新潮流」はすでに他コラム(本コラムをよりわかりやすく理解していだくには、是非一読ください)で紹介したが、このようなリーグの「大変革」とも言うべき新たなブームを「異常事態」たらしめているのが、「逆方向の新潮流」とも言えよう、大物外国人選手のポルトガル到来の波である。

ポルトガルリーグのクラブはただでさえ、「安く買って高く売る」という伝統的な移籍手法を用いて巨額の移籍金を獲得してきた。元来、この「高く売る」対象は各クラブで世界的名声を高めた中心選手であったが、新潮流によって、リーグで結果を残していない「原石」とも言える若手選手すらも高値で売却されるようになった。そうして得たな莫大な資金力を武器に、各クラブはヨーロッパの舞台でのプレゼンスを高めるため、中心選手が抜けた穴に即戦力となる大物選手を補強しようと積極的に市場へ飛び出した。

これまでは、その穴を埋めるのは南米やアフリカから補強した実力が未知数な無名選手であった(それでも彼らは1年目から、退団した中心選手に匹敵する活躍を見せていたが)。また、ポルトのクアレスマやスポルティングのナニなどのポルトガル人大物選手の里帰りとは毛色が違う、まさにリーグにとって「異常」とも言える新ブームなのだ。

新たな波に乗って大物選手が到来するとの噂が、今夏のポルトガルメディアを騒がせた。実際に入団した大物選手もいれば、残念ながら交渉が破談となった選手もいるが、両者をひっくるめた「逆方向の新潮流」がポルトガルを襲ったのである。

レアル・マドリードからイケル・カシージャスを電撃獲得したポルトを発端に、その波は南下し首都リスボンへ。このプレシーズンで新潮流の波に乗りポルトガルへ到来した大物選手と、残念ながら実現こそしなかったが噂になった大物選手を紹介する。

<ポルト>
大物選手到来の波をポルトガルに持ち込んだ第一人者。その裏には、無冠のロペテギ監督にタイトル獲得の圧力をかける会長の姿が。(参考記事:【ミニコラム】大型補強のポルト。その裏に見え隠れする会長から監督へのプレッシャー)

イケル・カシージャス
言わずと知れたレアル・マドリードの伝説。新潮流を生み出した第一人者でもある。カシージャスのポルトガル到来から、大物選手のポルトガル移籍の噂が加速した。選手の背番号「12」が刻印されたユニフォームが売り切れ状態になり、開幕戦をスペイン全土のメディアが報じるなど、国内外で大注目を浴びた。ポルトにとって、昨季達成したCLベスト8を超える成績と念願のリーグタイトル奪還に向けたキープレイヤーになるのは間違いない。

パブロ・オズバルド
アトレティコ・マドリードへ移籍した3年連続リーグ得点王ジャクソン・マルティネスの後継者獲得へ躍起になったポルト。即戦力となる大物をワントップに求め、ジョレンテやゼコらにも関心を寄せた。その中で最終的に落ち着いたのは、アルゼンチンの問題児オズバルドであった。ローマやユベントス、インテルといったイタリアの名門クラブでプレーした経験がある同選手は、エースナンバー「10」をもらうなどクラブの期待を一身に集めている。改心して結果を残すか、ポルトガルでも問題の火種となるか。一か八かの大博打だ。

噂になったが実現しなかった大物選手
エディン・ゼコ、フェルナンド・ジョレンテ、エリック・ラメラ

<スポルティング>
国産の若手選手を育てる文化があるスポルティングも、さすがのブームの影響は避けられず。負傷離脱した主軸選手の穴埋めとして、大物選手を補強した。

アルベルト・アクイラーニ
スポルティングは、中盤の要であるポルトガル代表アンカー、ウィリアン・カルバーリョをケガで長期間失った。当初は、シャルケのガーナ代表MFケビン・プリンス・ボアテングの獲得が間近であったが、メディカルチェックに抵触。急遽他の大物選手への転換を強いられた。そこで目をつけたのが、ローマやリバプール、ミランにフィオレンティーナなどの名門クラブでプレーしたアクイラーニだった。スポルティングはイタリア人ベテランMFと3年契約を締結。選手は、現在途中出場でポルトガルリーグへの適応を進めているが、先日は移籍後初ゴールを決めるなど、即戦力として期待に違わない活躍を見せる予感を抱かせている。

噂になったが実現しなかった大物選手
ケビン・プリンス・ボアテング

<ベンフィカ>
6年間チームを率いたジョルジ・ジェズス監督が退団し、転換期を迎えたベンフィカ。ポルトガルリーグ2連覇を果たしたチームの主力選手を多く残留させることに成功したためか、今夏の移籍市場での動きは控えめであった。しかし、ポルトのカシージャス獲得を機に顕在化した新ブームだが、それ以前にどこよりも早く大物を獲得していたのがベンフィカであった。まさに新ブームの原点とも言えるのだ。

アデル・ターラブ
かつてトッテナムでプレーし、ミランでは本田圭佑とレギュラー争いを繰り広げたモロッコ代表FW。6月にいち早くポルトガル到来が確定した、新ブームの原点とも言える選手だ。ベンフィカは移籍が有力とされた(結局今夏は残留が決定した)ニコ・ガイタンに変わるウイング選手として獲得したが、体重過多などコンディション不良のため未だ本領を発揮できていない。早くもリーグ戦で初黒星を喫し、パフォーマンスが懸念されているベンフィカにとっての救世主となれるか。

噂になったが実現しなかった大物選手
ロベルト・ソルダード、長友佑都

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彼らが誇る世界トップクラブでのプレー経験は、ポルトガルリーグに還元され、その発展を助けるだろう。ポルトガルクラブがヨーロッパ大会におけるプレゼンスを高めるかもしれないし、国内リーグの競争力が増すかもしれない。または、若手選手が一流の経験値を盗み急成長を遂げることも考えられる。兎にも角にも、ポルトガルへ到来した大物選手がもたらす恩恵は様々であろう。現在のポルトガルサッカー界は、かつて航海士がアフリカやアジアなど世界各国に進出した大航海時代の如く、多くの若手選手が欧州各国の強豪チームへ活躍の場を移している。そのような中で、江戸時代に日本へ来航した黒船の如くポルトガルへ到来した大物外国人。強大な危機感から日本の富国強兵策に影響を与えたアメリカ船のように、彼らが持つ一流の経験値がポルトガルへ還元されたとき、再びポルトガルリーグに大変革をもたらす新たな潮流が必ずや生まれるはずだ。